ノエル        

●45話




 ノエルは大したことじゃないから・・・。なんて言ったが、大したことない訳なかった。
 マムルークは歴史ある国だからだ。
 独特のしきたり、作法は山ほどあって、史絵奈は目の回るくらいの大変な思いをして過ごす事になるのである。
 ノエルは優しくも厳しい師匠だった。
 同じくらいの年齢だったのが良かったのか、フランクに接してくれるので、それだけでも助かったのだが・・。
 大変なのは、ノエルの方かも知れなかった。なんの基礎知識もない史絵奈に、作法を教えてくれるのだが、そうそう身に付くものでもない。
「何度言ったらわかるのよ。」
 彼女の口からそんな言葉が飛び出して、ため息をつく様子を見る方が、気の毒なくらいだった。
 史絵奈の方は、彼女に呆れられ、見捨てられでもしたら大変だ。
 必死に覚えようとする史絵奈の姿勢だけは、認めてくれたのが救いだった。
 なんとか一日一日が過ぎ去ってゆく。
 夢中に暮らすうちに、ふいに気付いたのだが、史絵奈に振られる仕事は、衣の着付けをマスターし、国の作法を覚えるだけで、他は何もない。
 炊事を手伝うわけでもなく、屋敷の掃除を言い渡されるわけでもなく、この屋敷内での自分の立場は不思議な感じだった。
 逆に、炊事一つとっても役に立たない。と、バレてしまっているのかもしれない。
 楓吾の存在が余程、彼等にとっては有益な存在だから。なのかも知れなかった。
(風見くん。ごめんね~~。ここでもお荷物で・・。)
 心の中で詫びを入れて、史絵奈は気合を入れるのだった。
 楓吾の方が大変なはずだった。
 傭兵の仕事をこなせるように、ならなければいけないのだから。
(どうしてるんだろう・・・風海くん。)
 会いたいと思うが、史絵奈にもナビにも自由がなかった。
 マムルークの文化は面倒で、やっかいだ。礼の仕方からして、相手の身分を考えて変えてゆかなければならないのだ。
 頭を下げる動作一つとっても、官位を覚えるのから始めないといけない。
 歴史あるマムルークならではの文化は、史絵奈を辟易とさせたのだが、ナビは違った。
 呑み込みが早くて、史絵奈をさらに焦らせてくれるのだが、こう言ったものは、幼い頃から教育されて、初めて身に付くものなのかも知れないのだ。
 15才からやり始めても、付け焼刃というか、なかなかモノになってくれない。
 やはり、こういった“しつけ”は、頭の柔らかいうちに始めるに限るのだ。





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