奥の方様・・・。        

●42話




 奥の方様の屋敷は、主殿に比べて小ぶりな感じで造られていた。
 いかにも女主人が住まうにふさわしい小物や、布でレイアウトされている。
 そんな小物達を見ている余裕は、さすがになかった。
 楓吾がいないからだ。
(どうしよう。私ヘマしたら・・。)
 彼に迷惑かけてしまったら・・。
 また不安に思って青ざめてしまう史絵奈に、ナビがパチンと背中をたたいてくる。
「大丈夫だよ。」
 厳しい瞳で見つめてこられて、引きつった笑みを浮かべるのだった。
 二人がまず、連れてゆかれた場所は、土間だった。
 土の上で伏礼してうずくまっていると、出迎えた女中よりも、もっと格上らしい侍女が姿をあらわした。
 即座に
「この者達に、まずは湯浴みを。」
 と言い渡されて、史絵奈達はまた違う場所に連れて行かれた。
 さすがに今度は板の間に通される。
 せまい物置きのような場所で、少し待つように言って姿を消した女中は、たらいを脇に抱え部屋に入ってきた。
 後から入ってきた女中の腕には、面通りのための衣服だろう。幾枚かの布が掛けられている。
 後から入ってきた女中は、布を床に置くと、すぐにも出て行ってしまった。
 残った女中に、
「湯浴みの仕方は知っている?」
 と聞かれて、首を横に振る史絵奈に、
「後でちゃんと教えてあげるわ。とにかく、今はさっとだけ私がしてあげる。
 服を脱いで。」
 問答無用な感じで言われて”しまった!”と思う。
 フラニーの衣の下は、学校の制服だったのだ。
 どうしよう。
 焦って青くなって、手が止まった瞬間。
「キニィー!」
 呼ばれて
「はい・・。」
 答えて史絵奈達を交互にみて、
「・・・ちょっと待っていて。」
 つぶやいて、彼女は出て行ってくれたのだ。
「やったっ。今の間にだよ。」
 言って、慌てて二人は服を脱いで行く。
 すべてをフラニーの服でくるんで隠してしまった。
 そして、しばらく待っていたが、彼女は帰ってくる気配がない。 仕方がないので、自分たちでやってしまおう。という事になる。
 ナビの体は綺麗なものだ。ツルツルお肌をサッと拭いて、乾いた布で拭くと出来上がり。
 たらいの横に置いてあった服を広げてみて・・・。
「・・・・。」
 着せ方が分からなかった。
 布は一枚ではなかった。ズボンらしき物まであったので、それを広げるのだが、ゴムが中に入っていないので、どうやって体に固定するのか分からない。
 紐も何本もあって、どう使うかサッパリだ。
 まるで着物みたいな直線で裁断されて、縫われた布達は、出来上がりの姿が想像できないのだ。
 小さいサイズと、大きいサイズと分けられて2セットあったので、史絵奈とナビに用意された物であるくらいは、判別つくのだが・・・。
「ナビは上着みたいなそれをかぶっておくから、シエナ。体洗ったらいいよ。」
 固まってしまった史絵奈に、ナビが助け舟を出してくれたので、素直に従うのだった。
「ごめんね。ナビ。体冷やさないようにね。」
 言って慌てて、史絵奈もたらいにかけてあった布を湯に浸し、  全身を拭いてゆく。石鹸がなくても、結構な垢が出た。
 布で擦れば擦るほど出てくるので、ムキになってくる。そのうち肌が赤くはれて来たので、やり過ぎた。と思った。
 乾いた布でサッとぬぐった後は、髪の毛だ。
 垢が浮きまくる湯を見て、
「汚いね。・・・でも洗うわ。・・実は言うと、かゆくて仕方がなかったのよ。」
 言ってたらいの中に頭を突っ込んで、ザブザブ洗い始めた。
 頭皮をマッサージするようにして洗ってゆくと、生き返った気分になる。
 ずっとお湯の中で頭を突っ込んでマッサージし続けたいくらいだったが、うつぶせになった姿勢では、血が頭に集まって苦しくなってくる。
 ある程度洗った後、ナビに乾いた布を取ってもらった。それで拭いてゆくのだが、史絵奈が暮らしていたタオルとは段違いに質が悪い。
 なかなか湿気を取ってくれないが、それでもないよりマシなのは確かで・・。
 ある程度拭いた後は、キリがないと思った。
 元いた世界でしていた時と同じように、ターバンの様に、折りたたむようにして頭のてっぺんでまとめた途端。
「お待たせ~。」
 声がして、先ほどの女中・・キニィーと呼ばれた女性が部屋に入ってくる。
 布を頭に巻きつけた史絵奈の姿を認めて、仰天した顔をする。
(しまった!)
 思って慌てて布を外し出した史絵奈に、
「なんだ、そこそこ出来ているじゃない。その感じじゃ、体も拭いたのね。」
 と言った後、彼女に服の着方を教えて貰ったのだった。
 前合わせに着る服は、着物に似て非なるものだった。その上に袴のようなズボンを着用すると、結構動きやすい服装が出来上がる。
 ここはドライヤーなんてのがないので、洗い髪のままで、キニィーによって簡単に結われて紐でくくって終わり。
 そして、やっと、奥の方様の目通りがかなったのだった。





back  top   next