●40話
祝いの食事会は、和やかにすぎてゆく。
御館様は乾杯の合図をして、軽く食事を口にしただけで、席を立ったせいだか、昼間からの酒の宴は、男達で盛り上がった。
彼等は楓吾の存在が、特に気になるらしい。
チラチラ露骨に指をさしたりして話しあうシーンも見られたが、直接楓吾に話しかけないのだった。
楓吾の隣に座ったフラニーが、彼にベッタリ。だったからかも知れない。
それを目にした史絵奈は、単純におもしろくなかった。
マムルークの人達の食事風景は、基本手づかみらしいのだが、肉を切ったりするのには、マイナイフのようなモノで自ら切って口に運ぶ。
史絵奈と楓吾とナビの三人のテーブルの前には、小さなナイフが置かれているのが、その証拠だった。
ナイフ一つで肉を切り裂く作業は、慣れていない分、時間がかかる。
ほとんど肉と格闘しているかのようになってしまって、テーブルの上は見るも無残に散らかってしまった。
色とりどりの野菜は蒸されて食べやすい。
明らかに今までとは段違いに豪勢な料理の味が、味わえずに口に入ってゆくのはなぜだろう。
対してナビは、大口開けて旨そうに食して、満足気な笑顔をみせてくるので、この料理の数々はおいしい筈だった。
酒に酔った男達が陽気に騒いで、即興に歌などを歌い出すのを、耳にしながら、ため息をついてしまったのだった。
とにかく食べ物を口に入れると、満腹感だけは味わえるはずだった。
体のエネルギーになるのだから・・・。
そう思って食べる姿を、フラニーの肩越しに、気がかりそうな顔で見つめる楓吾の視線に、史絵奈は気付くことはなかったのだった。