●36話
籠の後をひたすら付いてゆく過程で目に入ってきた村の様子は・・活気に満ち溢れていた。
門に入った真正面の道路の両端に、露天がズラリと並ぶ。
新鮮な野菜や果物が山と盛られ、肉が焼ける香ばしい匂いが、辺り一面に漂っていた。
途端、お腹がグーと鳴る。
商店街のようなそこを抜け、民家の間を左に右に回って、村の様子を見てみると・・・。
この村の家々は単純に“かわいいー”なのだ。
まるでアニメのキャラクターの家のように、角がなく、まろみを帯びて、いびつでさえある。
それが独特の温かさを醸し出していた。
たぶん、土を捏ね、そのまま乾かすか焼くかして、作ったものだからだろう。
ただ色は茶色の土の色だった。
それでも、雰囲気は変わらない。
(おとぎの国にやってきたみたい・・。)
ポカンとなって立ち尽くす史絵奈の肩を、楓吾がポンと叩いてくる。
『ボーとしてると、放っておかれるぞ。』
小さくささやかれてハッとなる。言葉はマムルーク語だ。
楓吾は、何も思わないのだろうか。
何の感慨も浮かんでいないその表情は、家の形を“かわいい~”なんて思っている顔ではなかった。
彼におぶさっているナビを何気に確認すると、彼女は眠ってしまっている。
高揚した気持ちを共有する相手がいないので、なんとなくおもしろくない史絵奈なのだった。
一行は家の間を右往左往しながら、結構大きな家の前までやってくると、立っていた門番が直ちに門を開けた。
門の部分は木製だ。
フラニー様の家は、様付けられて呼ばれるだけあって、大きかった。
籠は中庭のような所を通り抜けて、玄関とおぼしき扉の前まで来ると、床に下ろされた。
従者の介助でフラニー様は籠から出てくる。
もう一人の従者が扉を開けていた。
「フラニー様のお帰りにございますーー。」
響く声で中の住民に知らせたようだ。
しばらくして、恰幅のいい女性が姿を現した。背後に小さな少女が、たらいを両手いっぱいに掲げて控えている。
「お帰りなさいませ。」
頭を下げる彼女に、フラニー様は頷いて
「御館様に、戻りましたと伝えて頂戴。フィーゴ様をお連れしましたと・・。」
と言い渡した。
話す時の、顎の位置がだいぶと高い。その様子だけみても、とても高飛車な様子が見て取れた。
「直ちに・・。」
短く答えて女性が扉の向こうに消えた。
(ひょっとして、時代劇並みに、身分社会な国なの?マムルークって国は・・。)
ひょっとしなくても、そのはずだ。史絵奈達が過ごしていた社会とは、全然違う世界だった。
(風海君の話で正解!なにも知らないで通しておいた方が、後々ややこしくならないわ・・。)
育った環境が、全然違うから。
ヘマした時の、理由付けが、“知らなかった”で通すのが一番なのだ。
つくづくそう思った史絵奈は、フラニー様を先頭に中に入ってゆく一行についてゆくのだった。