フラニー様        

●35話





 それから三人は、腹を空かせた状態で、マムルークの人達を待った。
「湖の水も美味しいぞ。」
 と楓吾に言われて口に含むと本当だった。
 ほのかに甘い。川の水とは少し違う。芳醇な香りにうっとりとなっていると、
『フィーゴ様。』
 声がかかってハッとなる。
 振り返ると、三人の人の姿があった。
 真ん中には女性の姿。
 両端の男性は、お付きの人とすぐ分かる。
 見るからに衣装の格が違うからだ。
 男性は両足を出した軽装姿。着古して汚れた布を体に巻きつけているのみだ。所々に毛皮を張り付けた姿は、防寒のためかも知れない。
 それに対して女性はたっぷりの布を使って、幾重にも重ねて帯で結んでいる。裾の部分は折りたたんで、いかにも動きにくそうな民族衣装だった。
 被り物から垣間見える髪の色は黒く、結われているらしいのが分かる。
 そして女性は、瞳を輝かせて楓吾を見つめていた。
 はちきれそうな頬を持った可愛い感じの女性だった。
 史絵奈達と、ほとんど同じくらいの年代に見える。
『早いじゃないですか。』
 ちょっと驚き顔で楓吾が答えている。
 挙動不審に見えるのは、何故だろう。
『フィーゴ様に、一刻も早くお逢いしたくて参りましたの。』
 その言葉に、楓吾は軽く仰け反って、チラリと史絵奈を見る。
 史絵奈は、ニッコリ笑って返した。
(私達、兄妹の設定なんでしょ?)
 史絵奈の反応を、みるかのような彼の動作は不自然だ。
 笑顔で返した史絵奈の顔を見て安心したのか、
『それは光栄ですが・・これが妹のシエナで・・そして、昨日は話しそこなったのですが、最近仲間になったナビです。
 俺等がフラニー様の所でお世話になってしまうと、こいつ一人っきりになって、飢え死にしちゃうんです。子供にも仕事・・ありますか?』
 と、申し訳なさそうに話してゆくと、フラニー様。と呼ばれた女性は、軽く目を見開いて、
『まあ、そうでしたの?かまいませんよ。三人一緒にいらして下さい。
 ・・・子供に仕事ですか?・・まともなのはないですけど、子供一人くらい、食べさせる経済力くらい、うちにはあります。
 フィーゴ様のお話は、兄にもしてありますので、兄の方も心待ちにしてます。
 腕の立つ職人は、大歓迎ですから。
 ・・・それと、シエナさん?でした?
 初めまして。うちは小さな所帯ですが、用心棒といいますか、傭兵の仕事を請け負っているんです。
 賄いやら、男共の世話をする者は、いくらでも必要なんで、心おきなく来て下さって結構ですよ。』
 ニッコリ微笑んで話しかけてくるフラニーの視線が、どこか上から目線のように感じてしまうのは、気のせいだろうか。
 まず話し言葉が史絵奈達とは違う。マムルークの高等教育を受けているかのような仕草、語り口調だった。
 もちろん、フラニーの言葉は日本語ではない。マムルークの言葉がスラスラ理解できて、楓吾が口に出す言葉もマムルーク語だ。
 多分ムルティンの血のおかげか、教室の法則の欠片が、この辺りにまで影響しているのか。史絵奈にもよくわからない現象だったが、言葉が通じるのはとても便利だ。
 そして、彼女の対応・・まるで上流階級を鼻にかけているというか・・・ いや、彼女は村の中でも上流階級の人なのだろう。
 明らかに身につけている服が、隣りの人とは違うのだし・・。
『ハハハッ。よろしくお願いします~~~。』
 無理な笑顔を作って答えると、顎でしゃくるだけの返答を漏らして楓吾に向きなおる。
 その仕草に、ちょっとだけムッとなってしまった。
『では早速参りましょうか。お昼はまだお食べになっていないでしょう?  家で食事の準備をしておりますので、のんびりしていると間に合いませんもの。』
 楓吾の横に立って歩き出す。
 史絵奈もナビも後を付いていった。
 一行は湖の側に木の棒を並行に二本並べ、その上に板を敷き、雨よけのついた籠のような道具の前までやってくるとピタリと止まった。
 フラニーが迷いなく籠の中にはいると、お付きの人が棒を持ち上げた。
 楓吾と史絵奈とナビは、彼等の後を黙ってついてゆく。
(用心棒の仕事とか・・知っていたの?)
 とか、いろんな事を、楓吾に聞きたかったが、頭に日本語が浮かんでいても、 口に出てくる言葉がさっきみたいにマムルーク語が出てくるかもしれなかった。
 日本語が出てくれば、速攻で怪しい三人組となってしまう。
 楓吾も何も話しかけてこないし。史絵奈も何も話さないでおこうと思ったのだった。
 黙々と一行は森の中の小道を歩いてゆく。
 湖は村と連携していて、人の足で踏み固められた小道のような場所を進んでゆく。
 楓吾は汗一つかかない。
 一行に付いてゆけないのはナビだった。いち早くそれを察した楓吾がナビをおぶった。
 史絵奈まで楓吾におぶさるなんて事はできなかった。
 小屋に閉じこもりっきりだった史絵奈は、とても辛い道のりだった。
 一気に足がパンパンに疲れて、疲労を訴えてくる。
 そんな体をなだめすかしながら、必死に彼等に遅れないように、足を動かしてしてゆくのだった。
 歩きで2・3時間はかかったのかもしれない。
 途中、同じように歩く人々。馬のような動物に荷台を引かせている者が目に入る。
 旅の途中か、荷物の運搬を生業にしているらしい人々の格好は、みな薄汚れていたが、歩く速度は驚くほど速い。
 日頃、体を使っているので、能力が高いのだろう。
 そんな人達を、いちいちチェックしている所ではない。
 そうこうするうちに、一行は土で塗り固まられた城壁のような壁の前で、立ち止まっていた。
 目の前には、門があり、警備の者が立っている。関所の所のそれは、入門の際の様々な検査が行われていた。
 そんな人達の横を通り、籠の存在を認めた警備員に
「フラニー様。お帰りなさいませ。」
 と、言葉をかけかれて顔パスで通ってゆけた。
(ここでも、あの人。フラニー様なんだ・・。)
 そう思ったくらいで、疲労困憊の史絵奈は、周囲の物を見る余裕すらない。
 フラフラ、ヨロヨロ・・彼等の後を付いてゆく史絵奈を、何気にチラリとみてきた楓吾が、おかしそうな顔をするのだ。
 睨み返してやった。
 その後はただ、目的地にやっと着けたので、ホッとなってしまったのだった。



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