●29話
「楓吾、ナビの姿が見えるんだ。」
ポツリと呟く史絵奈の言葉で、我に返ったらしい。楓吾が
「見えるからビックリしたんじゃないか。この子は何だ?」
ナビが小さな子供の姿で、しかも天真爛漫な無邪気な顔をしていたから良かったかもしれない。
警戒心を抱きかねる顔でナビを見つめ、聞いてくる彼に、
「古き神に属する者なんだって。」
と、史絵奈が答えると、
「ナビちゃんです。よろしくね。カザミクンがいない昼間は、ナビがシエナの事を守るから安心してね。」
と言うものだから、一気に肩の力が抜けたらしい。
「・・・・フォルダを開けたんだろ。」
ポツリと呟く楓吾の声は、とても低い。
「あの・・その・・私、楓吾の役にたっていないじゃない。少しでも暮らしやすくならないかなあ・・なんて思って・・。」
目を眇めて見てくる彼の冷たい視線に、言葉が尻つぼみになってしまう。
「危ないだろうが。巫女姫の魔法を、使いこなせるなんて、思ったのか?」
「カザミクンの言うとおり!」
楓吾の怒鳴り声に、間髪入れずにナビが言葉を挟む。
ハッとなる二人の視線に、クルクル動く表情豊かな瞳で見返して、
「確かに危ないとこだったよ。
マムルーク語で書かれたファイルを開けると、今頃シエナはここにはいなかったもん。
でも、もう心配しなくて大丈夫。ナビが出て来れたから、シエナには、危ない所は触らせないし。
魔法も使えるよ。」
ニッコリ笑って手を広げ、キラキラ光る玉のようなものを出してくる。
また始まった。暴走ナビちゃんだ。
中空に浮かぶ輝く玉を、あっ気に取られた顔で見つめる楓吾は、彼なりにナビの存在に納得したようだった。
「約束できるか?史絵奈に妙な所を触らせないって。」
「もちろん。なんなら、シエナの視界に浮かぶフォルダを見えなくしてみる?
見えなかったら、触りようがないでしょ。」
「そうしてくれるか。」
二人でそう決断して、史絵奈の方を振り返ったナビが、印を結び始めた。
「あの・・その・・ちょっと待ってよ。私の意見は?」
どうなっているのよー。
史絵奈の叫ぶ声に答えてくれる者は、誰もいなかった。
ほどなくして、半透明のフォルダの画像が薄くなってゆく。透過処理が進んだらしい。
綺麗に見えなくなって、ぼんやり佇む史絵奈に、
「フォルダの場所も変えたからね。クリックしても、展開できないよ。」
ナビの言葉が追い打ちをかけた。