●26話
いや、展開しようとしていたわけではなかった。
フォルダを注視していた時、目に入ったゴミが気になって、片目で瞬きしたら、それだけでフォルダが変化したのだ。
展開されて、二つのフォルダが浮かんでいた。フォルダの上部に、小さく階層上へ。のマークが付いてるのが、イヤ味なくらいだった。
(ナビゲーションサービスだ・・。)
史絵奈は心の中でつぶやく。
ナビゲーションサービスとは、Mac os85からの使えるようになった新しい外観と機能を持つファイルオープン、セーブダイアログのことだ。
ウインドウに表示されるフォルダやファイルはFinderのリスト風に表示され、感覚アイコンをクリックすると、階層表示になる。
これのおかげで、フォルダの移動、ファイルの選択が容易になった経緯があるらしい。
開く・保存ダイアログボックスを使い慣れている史絵奈にとっては、この表示を見た段階で、この情報を使える可能性を、とても期待した。
なんてったって、二つあるファイルのうちの一つのフォルダには、互換ファイルとあるのだ。
残りのフォルダには、日本語ですらない梵字のような字がならんでいた。
まさにこっちのフォルダが原本なのだろう。
教室の法則が働いているのだ。
それを見ると、やめられない。
史絵奈は互換ファイルを注視し、まばたきをした。見る間にたくさんのファイルが視界に広がってゆく。
ボー然となって、半透明に浮かぶそれらを、見つめていて気付く。
すべてのファイルには拡張子にしかみえない.(ドット)○○○が付いていた。
.txtとあるファイルの頭にはread meとまである。
それを確認すると、またおかしさがこみ上げてきた。
(これ、すっごい・・。)
便利なツールだ。
互換ファイルなので、日本人の史絵奈にも分かりやすいように、関連付けてくれているのだ。
ここには見えないが、ひょっとしなくてもOSやメモ帳などのツールが入り込んでいるのかも知れない。
“教室の法則”は、素晴らしいとしか言いようがなかった。
まずはそれを開けてみると、日本語での羅列で、ズラリと説明文がならんでいた。
上部のバーの部分に、read me.txt。その横にメモ帳とあったのを、さりげなく確認。
(やっぱりそうだ・・。)
つぶやいて、文章を読み進んでいった。
文章の先頭は、この世界の特徴らしい記述だ。
ここは、天との取り継ぎを行えるとされる巫女姫が存在する世界・・・。
(・・・・。)
それを読んだ段階で、史絵奈はガックリ来る。
(ここは日本じゃないんだ・・。)
かすかだが、願望としてあった。
この段階で、100パーセントここは日本ではないのが判明した
史絵奈はさらに理解しようと思い、読み進んでゆく・・・。
・・・この世界の、天の巫女姫の位置付けは、天と人との橋渡しができる存在。
人が住みやすいように、天候さえも操り、作物の豊穣をもたらす術を施すことができるらしい。
それは、天の意志を語りながらも、自国の恵みのみを追求する魔術だった。
(天候を操るだなんて・・私達の世界にも欲しいくらいの力だわ・・。)
関心して、巫女の系譜などを読み進めてゆき、地図のファイルの場所の説明に行きあたる。
あわててread meファイルを小さくして、視線をめぐらし、地図と書かれたファイルを探し出す。
展開しようと、片目クリックするが、開けません。と出た。
(?)
訳も分からずもう一度read meファイルを開けて、読んでゆくと・・・難解な文字の羅列だった。
どうやら、メモ帳には簡単なこの世界の説明の後に、ファイルの使い方の説明などが書いてあるらしい。けれど、専門用語だらけだった。
ほとんど意味が分からない。
専門用語で書き連なれたそれを、学校でも成績のよかった楓吾なら、解けるものかもしれなかった。
(どうしよう・・。これを持っていて、使えない私って・・。)
心の中でつぶやきながらも、これ以上、彼に負担をかけさせたくはない。と思った。
自分なりにも分かる文字があるかも知れない。と、ひたすら読み進めてゆく。
そして、ファイルナビの起動の仕方。の文章に行きあたったのだ。
(これだ!)
と思う。
(ナビゲーションしてくれたら、私にでも出来るかも・・。)
藁にもすがる思いでクリックすると、直ちにプログラムが起動する。
少しホッとするのを感じて、視界の真ん中で、プログラムが動きだしたらしい図柄が出るのを、ぼんやり見つめるのだった。
しばらくして、セットアップウイザードを起動しますかと質問欄が出る。
迷わずOKをクリック。
出てくる言葉のままに、次へ、次へ。をクリックすると、勝手にセットアップ、インストールへと進んでゆく。
あっという間にファイルナビの名前を付ける、テキストエリアが浮かんでいた。
横に必須の文字がつき。キーボードまで浮かんでいるのだ。
文字の上でクリックすると、テキストエリアに入り込んでゆく。
名前はただの『ナビ』にした。
見る間にインストールが始まって、ナビファイルのファイルが表示された。
拡張子が.exeファイルを見つけると、迷わずクリックする。
プログラムが起動した。
途中で止まる。
『プログラムが正常に作動しない恐れがあります。実行しますか?』
(なぜ???)
あ然となった。
けれど、ナビがなければ、とても困った状態に逆戻りだ。
(正常に作動しなくっても、少しは役に立ってくれるかも・・。)
そう思って史絵奈は実行する。のボタンをクリックした。
視界に少女の姿が現れる。
彼女の姿はとてもリアルだった。
5歳か6歳くらいだろうか。愛らしい姿をしていた。
長い黒髪を垂らし、白い布を巻きつけた服装は、異国風の趣きを醸し出していて、教室内で出会った巫女姫の特徴を宿していた。
『私、ナビちゃん。あなたのお名前は?』
それを聞いた瞬間。史絵奈は思わず噴き出してしまっていた。