●22話
小屋を出た二人は、同じような感じで続く木と木の間を歩き、迷子にならないように目印をつけながら歩いた。
ほどなくして30センチほどの幅で流れる小川を見つけた時、二人で飛び上がるくらいに大喜びする。
川の水は無色透明で、朝日を浴びてキラキラと光っていた。
(水の宝石みたい・・。)
喉の渇きが見せる幻影なのか、そう思った史絵奈はすぐさま手を浸して飲もうとして、楓吾に差し止められた。
「!」
一瞬、彼の動作の意味が理解できなくて、顔を上げた史絵奈に、
「いきなりゴクゴク飲まない方がいいと思うぞ。飲める水とは限らないから・・。」
と言ってくるので、納得した。
ここがどこだか分からない以上、気をつけるにこした事はない。さらに楓吾が
「まずは俺から・・あぁもう飲んじゃった?」
と、言おうとして、すでに遅かった。
一口だけ・・。
史絵奈は、掌にすくって口に含んで川の水を飲んでしまっていた。
無味無臭の、サラリとした水は史絵奈の体の中にすんなりと入っていって、
「おいしいこの水!・・飲めるよ。多分、大丈夫だと思う。」
と勢いこんで叫ぶ史絵奈の様子に、楓吾も耐えきれなくなったようだ。 手ですくってゴクゴク水を飲みだした。
いきなりたくさん飲まない方がいいって言った当人が、ゴクゴクやっている。
「ホントだ。普通の水だぜこれは・・それもすごくウマい!」
飲みながらつぶやく楓吾に、史絵奈は一口どころか、浴びるように川の水を飲んでゆくのだった。
川の水は冷たく、清涼感があった。あっという間に二人の体に浸みわたる。
とりあえずは水分補給の確保ができ、脱水症の危機は脱して、命を取り留めた後は、食の問題だった。
小屋に戻った二人は、まず自分たちの所持品を確認しあった。
体一つで飛ばされているのもあり、制服の中に入れていたのは、ハンカチ、テッシュと携帯電話くらい。
携帯電話ほど、こんな場所では、無用な物はない。
唯一、役に立ちそうな物・・・史絵奈が自らの体を傷つけた時に、無意識にポケットの中に入れておいたカッターだった。
「せめて、ライターさえあったらな・・。」
ポツリと呟きながらも楓吾は、カッターを握っては放すを繰り返し、
「後は自分たちの体のみか・。」
と、言ってハッとなり、
「ちょっとこれ持っていて・・。」
と、カッターを史絵奈に返すと、いきなり楓吾はピョン。と飛び上がったのだ。
一瞬にして、彼の姿が消える。
ア然となって、あちこち見回しているうちに、バサバサと音がして、史絵奈の目前に楓吾が戻ってきた。
歓喜に震えている楓吾の瞳が、間近にあった。
「重力が小さいのか?それとも相川の血か!」
言ってすぐに、今度は側にあった大木に向かって渾身の力を入れて蹴りを入れる。
“ドン”
と、すざましい音がした。
どこにこれだけいたのだと思うくらい、ザザァーと、鳥達がいっせいに飛び立った。
メリメリメリッ・・・。
楓吾に足を置かれた大木は、みるみる根っこを浮き上がらせて、ゆったり倒れてゆく。
横倒しにはならない。すぐ横にはえていた木に、よりかかるような格好になって、木はそこで止まった。
いや、楓吾が足をどけたからだ。
「なんだかすげ〜!」
小さく叫んで、彼はまた飛び上がった。史絵奈は今度は顔を上げたので、その姿を確認することが出来た。
大木とほぼ同じくらいの高さまで、一飛びで飛び上がって浮く彼の姿を・・。
そしてゆったりと降りてきながら、木の枝に飛び移り、ヒョイヒョイと軽い身のこなしで木の間を渡っている楓吾の姿に、ボー然となってから、ハッとなる。
(私にだって!出来るかも・・。)
淡い期待を胸に、史絵奈だって飛び上がった。
膝以上浮かばない。あっという間に土に足が付き、
「あれ?」
と、首をひねって、楓吾と同じように別の大木に蹴りを入れて、自分の足の裏と膝に激痛が走ってうずくまる。
「っつう・・。」
うずくまって唸る史絵奈の側に、戻ってきた楓吾が一言。
「お前、何やってんの?」
「私だって、飛べるかどうか試した所・・。」
うずくまったまま、涙を浮かべて答える史絵奈に、楓吾は首をかしげる。
「飛べないのか?」
「飛べるどころか、木を蹴って、痛い思いをしただけ・・。」
「マジ?」
答える声色に、喜色の混じった物を感じて、史絵奈はムッとなった。
「なんで私の体は、変わんないの?」
怒り声を上げる史絵奈の頭上を、楓吾の言葉が降り注ぐ。
「・・狩りは俺に決定だな。二人同時にあまり外にでるのは不用心だし、 当分、外の観察や、食べ物の調達は、俺に任してくれるか?」
「・・・。」
異論があるわけなかった。