目が覚めて・・・        

●21話




 鳥達のさえずりに、緩やかな朝の目覚めだった。
 背後には、楓吾の気配。後ろを振り返ると、無邪気な寝顔にぶちあたった。
 彼も、心地よい眠りが訪れているのだろう。
 起こしては悪いと思い、そっと腕を外して、小屋を出る。
 細かな霧が周囲に立ち込めて、荘厳なまでの森の景色を見ることが出きた。
「ふぁあー。」
 と、伸びをして凝りをほぐし、ふいに尿意を感じて慌てて小屋から離れると、死角になったあたりで用をたした。
 小屋には、トイレさえなかったのを、昨日のうちに確認していたからだった。
 出すものを出して、スッキリした後は、空腹でお腹がグルグルなる始末。
「ここでは、お腹もすくし、喉もかわくわ。」
 明らかに教室とは違う世界だと、実感するも、早くも食糧調達の危機に直面して青くなる。
「・・どうしよう。とにかく、今日は水のあるところを探さなきゃ。」
 当分は、サバイバル生活を、覚悟しなければならない。と、覚悟を決めた瞬間だった。
 昨日から何も飲み食いしていないせいで、口の中は乾ききっている。
 一刻も早く体からのサインに答えてやらないと、確実に“死”を招き寄せる事になってしまうだろうから・・。
 史絵奈は自分で自分に頷いて、小屋に戻って行った。
 小屋に近づくと、目覚めたらしい。楓吾の姿があった。
「風海くん。」
 史絵奈が呼びかけてみると、彼はハッとなって声のした方に顔を向けた。史絵奈の姿を認めて、ホッとして肩を落とした。
「お前、外にでてゆくなら、言って出てくれよ。さらわれたと思ったじゃないか。」
 眉をひそめて言ってくるのを
「ごめん。風海君、よく眠っていたから、起こしちゃ悪いと思って。
 ・・・あのね。ここでは、お腹もすくし、喉も渇くよ。トイレにもいきたくなるし・・。」
 と、史絵奈が言うと、楓吾は少し目を見開いて、クスリと笑う。
「お前、教室の中でもそれを言っていたな。腹の虫がなったのか?」
「鳴るどころか、すっごく喉が渇くもの。
 教室の中じゃ、何も感じなかったでしょ。これって大事な事だわ。ここでは時間は流れている証拠。けれど、お腹がすくから、食べ物をどうにかしなくちゃいけなくなっちゃったけど・・。」
 尻つぼみになる史絵奈の言葉に、彼はコクンとうなずき、
「確かに大事だ。・・・まずはとにかく水だな。近くに小川が流れていないか、探してみようか・・それより俺も、ちょっと用を足してくるわ。
 小屋の中で待っていてくれ。何が起こるか分からないんだから、変な 気配がしたって、外に出るなよ。」
 結構彼は、心配症らしい。
「分かった。」
 史絵奈がうなずくと、彼もコクンとうなずき、お互い入れ替わるようにして史絵奈は小屋の中へ、楓吾は木々の中に入ってゆく。
 小屋の中は、朝の光が木の隙間から入り込んで、行く筋もの光の帯を形作っている。
 森の外も中も、美しい自然の姿だった。生命の伊吹に満ち溢れている。
 耳を澄まさなくても“ほっほー”と、正体不明の動物らしい声が響きわたっているし、たまには‘キィー“と、耳を覆いたくなる奇声にビクッとなった。
「・・・・。」
 小屋の中に入って、一人で彼の帰りを待っていると、楓吾の気持ちもわからないでもない。
 いつ動物に襲われるか・・いや、そんな事より、あの巫女姫の手先がいつやって来ないとも限らない。
 巫女姫の術の塊のようなフォルダを、史絵奈が持っているからだ。
 たぶん、きっと“これ”は彼らにはとても重要な物のはずだった。
(私が、“これ”を持っているかどうか、あの人たちに知れているかどうかは分からないけれど・・。)
 持っているのだと知ると、それこそ血眼になって探し出してくるだろう。
 そう心の中でつぶやいて、相変わらず自分の視界の左端に浮かんでいるフォルダを、今一度確認し、ため息をつく。
 不安な気持ちも、楓吾が小屋に入ってきたので、すぐにも霧散した。
「じゃあ、行こうか。」
 彼に促され、史絵奈は勢いつけて頷いてしまい、
「だいぶ、のど。乾いているみたいだな。」
 と、楓吾の失笑をかったのだった。





back  top   next