●20話
・・・史絵奈が安らかな寝息をたてて眠りについた頃。
楓吾は、まだ寝つけなかった。
立て続けに起きたありえない現象に、まだ頭が付いてきていないせいもあったが、なによりも腕の中にある柔らかな、彼女の存在も大きいかもしれなかった。
クラスの中では目立たず、いるかいないかも分からない普通の女子生徒だった。
楓吾の腕にすっぽり入りこむ彼女の体だって、小さくてか弱い。
その子が、こんなにしなやかで強い精神の持主だったなんて、思わなかったのだ。
そもそも、教室が変化した時に、混乱した楓吾を落ち着かせてくれたのは、彼女だった。
小さな柔らかな感触が、我に返らさせてくれたようなものなのだ。
史絵奈が冷静だったのは、かのんとの事が、あったせいもあるのだろうが、なりふり構わず楓吾の体を抱きしめ、さすってくれたおかげで、一心地つけたのは事実だ。
(・・・喜佐は無謀すぎるんだよ・・。)
異世界の招きに怯えるかのんを、この世界に引きとめようとして、お互いの肉を食んだ行為も、異常としかいいようがない。
まったくもって、信じられない事づくしだった。
その点ですでに、自分の体に対する安全性を、考えていないのが問題なのだ。
闇雲に突き進む史絵奈は、危なっかすぎて、見ていられない。
そんな彼女が、巫女姫の前で、楓吾を守るようにして毅然と立った姿は、震えが走ったくらいに凛々しかった。
自分の体と引き換えに、楓吾の安全を守る案を出した時、滅茶苦茶腹がたった。
そんな安全いるものか!と、思った。
異世界で、知る人のいない場所に、一人で放りこまれて、どうしろって言うんだ。とも思った。
偶然に偶然が重なって、今自分達は教室を出ることが出来て、二人ともこうして生きているのだから、終わりよければ、すべて良し。なのかもしれなかったが・・・。
(いや、まだ終わってないぞ。
ここが異世界だろが、日本だろうが、生きていくだけでも、大変な状況じゃないか・・。俺、喜佐を守ってやれるだろうか・・。)
風吾は、ため息が出る。
ここに来てから、格好の悪いことばかりだ。
(せめて、喜佐の剣にでもなれたら・・。)
暗闇の中で、巫女姫の言葉を思い出し、ボンヤリ考え事をしているうちに、睡魔が襲ってくる。自然にウツラウツラとなった。
その時自分が、小さく言葉を紡ぎだしているのに、気づきもしなかった。
史絵奈の手を、交差させる形に握った上で、紡ぎだされる小さな呟きは、日本語ではない。
重ねた掌がほんのり光を帯びて、細い環状を形作った淡い光は、ふいに浮かび上がる。
楓吾の頭を囲い、一瞬にして光は彼の体に吸い込まれてしまった。
その頃には、彼も眠りに捕えられていて、そんな現象には、気付きもしないのだった。
史絵奈がポツリと言葉を発する。
それも日本語ではなかった。
直訳すると『許す。私の。守護する者。』
・・・吾の剣となり、共にある事を許す・・・