●19話
「・・・・ここはどこと思う?」
周囲を見回して史絵奈に聞いてくる楓吾に、
「日本だと思いたい所だけど・・・正直わかんない。」
と、返事する。
「そうだな・・俺達、違う景色を見ているかどうか、試してみる?」
教室の事があったから、確認したいのだろう。楓吾に促されて、二人はしばらく、まどろっこしい程に、これはどう見える?なんて、お互い見慣れない草の模様や、小さく咲く花の数。ぼやけて見える映像がないかどうか確認しあった。
そして、教室の様な現象(お互いの見える景色の違う現象)が起こっていないのが分かると、まずはホッとなる。
太陽の位置も、時間と共に移動しているのも、よく分かった。
「まずは、妙な異空間じゃないみたいだな。それが分かったら、今度は周囲を探索してみよう。」
言われるままに、史絵奈は彼の後を付いてゆく。
ここは、本当に深い森だった。
大木が生い茂っているために、空気は澄み切っている。シン、と凍りつくような空気ではあるものの、雪が積もっている場所は一つも見当たらない。
背の低い雑草に、足を切られて眉をひそめて歩くうちに、とうとう人の作ったらしい小屋のような物を見つけることができた。
丸太をそのまま積み上げて、天井を覆っただけのそれは、とてもみすぼらしいものだったが、楓吾と史絵奈を喜ばせるには充分だった。
中に入ると、雑草が入り込んだ状態は、どうみても長い間使われた形跡ではない。
けれども今晩は、ここで過ごそう。と、とにかく夜露をしのげる場所を確保できたので、ひと安心した。
楓吾はその後も一人で、中も外も小屋の周りをグルグル回って、ここが日本なのか、外国なのか、それとも異世界なのか。判断つける材料を探しまわってくれていたが、見当をつけようがないみたいだった。
それだけ、小屋は国籍不明(というより、史絵奈達でも木を切る材料と、くぎか縄があればできそうな按配)で、木や草花。チラリと見えた鳥の姿も、違和感のないものだったのだ。
「・・・ここが日本だったらいいのにね。」
日が暮れて、周囲の見分けが出来なくなってしまい、小屋に戻ってきた楓吾に問いかけると、彼もコクリとうなずき返す。
小屋の中も、外と変わらず暗闇に支配されていた。いや、小屋の中の方が、暗いかもしれない。太陽が沈んだ後は、たくさんの星と、一つだけの月が顔を出しているらしいのだ。ちょうど満月で“月明かり”に照らされた森の景色は幻想的なくらいらしいとの事。
小屋の中は、闇に閉ざされている。かろうじて彼の気配が分かる程度だ。
「案外、元の世界に戻っていたりして・・。」
言って、自分で笑いたくなる気分もよく分かった。
日が暮れると、史絵奈が思った通り、寒さが生半可でないくらいに冷え込んでくる。
小屋の中でこんな感じなのだから、外で野宿する事になっていたら、“凍死”の二文字の心配をしなければいけなかったかも知れない。
寒さでブルブル震え、白い息を吐く史絵奈の肩に、楓吾がそっと制服の上着をかけてくれるので、慌てて外して彼の肩にかけなおす。
「俺はいいから。」
なんて言ってくるので、史絵奈は首を横にふり、
「風海くんも寒いじゃない。」
と答えると、
「俺は喜佐ほど寒くないから。」
なんて、強がりにしか聞こえないセリフを吐いてくる。
「じゃあ、抱きあって眠ろうよ。」
お互いをカイロ代わりに。
史絵奈の提案に、何故だか動揺したのか、暗闇の中で楓吾が身じろぎするのが感じられた。
「・・そうだな。俺の方が大柄だから、喜佐が俺の腕の中に入っておいでよ。」
ちょっとした沈黙の後、囁いてくる彼の声は、少しかすれていた。
「うん。そうする。」
史絵奈も、ささやき声で返して、彼の側に寄っていった。
ぎこちない仕草で、史絵奈を抱きよせ、お互い顔を一方向に向ける姿・ ・・史絵奈の背後を楓吾が包み込むという格好になって、しばらくはお互いの息だけを聞いていた。
楓吾が背後にいてくれているだけで、だいぶと寒さはやわらいでくれた。
史絵奈は、初めて座ったままでの自然な眠りに、身をまかせれたのだった。