●17話
「・・・・てのが、事の顛末。」
勢いこんで、話を終えるた史絵奈を見る楓吾の視線が、前にも見たことのある色をしていた。
肩を落として、ポツリと
「お前、・・・ホント、バカだな。」
って言うか、お前らしいっていうか・・。
「・・・弁当一つで、お前の気持ちをモノにできるんだったら、毎日でも持ってくるのに・・。」
「え?」
小さくつぶやいた楓吾のコメントの意味が分からない。聞き返す史絵奈に、楓吾は首を振った。
「いや、いい。それで?」
促されてハッとなり、
「お互いの血潮を含む儀式は、役にたたなかったのは、今の私達を見てるとわかるわよね。いえ、余計事がややこしくなってしまったわ。
・・・風海くんも、巻き込んでしまったから・・。
異世界に落ち込んでしまったかのんの姿は、教室内で映像が見えたから、きっとそう・・。
そして、ここからが本題・・。」
史絵奈はいったん言葉を切って、ゴクリと息を飲んだ。
それから、話し始める・・・。
・・・相川かのんは、『錨=アンカー』
かのんの叔父が、異世界に落ち込んだ際に、古き神に助けられた後、また元の世界に戻るために、彼の姉に付けられた印。
彼女は、100%姉の遺伝子を持ちながらも、古き神の細胞をも、呑みこんで生を受けた人外のもの・・。
叔父が異世界に落ち込んで、一時期過ごした場所は、『古き神』と言われるモノの中だった。
彼?彼女は、かの星の生物を、まるで標本を収集するかのように、無邪気に攫っては標本ルームのような場所に生きたまま、詰め込んでいたのだ。
・・・その中に人間の姿もあった。史絵奈がさっき出会った女性と酷似した人もいた・・。
(救助を・・。吾の体を元の場所に・・。)
小説の中で、そう切に願い訴え続ける彼女の姿を、哀れに思う主人公の感情も、きちんと表現されていた。
かのんの話を聞いた後に、史絵奈はもう一度小説を読み返していたから、よく覚えているのだ。
『なにも出来なくて、申し訳ない。』なんて、謝るシーンがあった。
叔父は、古き神に触れても恐怖に我を失わず、独自に順応した珍しい個体だったらしい。だからこそ、彼?彼女?の中で自由に過ごせたのだが、標本にされた女性は、そうではなかった。
彼女の国も、黙ってはいなかった。重要な役割を果たす巫女姫だったようで、女性の国の者達が、長い時間をかけ、尋常じゃないくらいの国力をあげて、かの国特有の魔力を使い、取り返しにきたのである。
さすがの古き神も、土台を揺るがされる程のもので・・。
『この場所は、古き神の中・・。吾の手の者が、崩した結果に現れた磁界。
しばらく後に、ここも崩れよう。その時は、そなた達も共に呑まれる運命・・。』
と、巫女姫がコメントした内容も、それを考えると合致する。
・・・虚無から姿を現した数人の姿は、巫女姫の手のうちにある者達だったのだろう。
けれども、彼女は失敗してしまった。
せっかく助けがきたのに、彼女は、彼らの手を握れなかったのだ。
・・・・失敗するかもしれない術を施してまで、彼女がなぜ史絵奈の体を欲したのか。
さすがの史絵奈にも、訳が分からなかったが、現実にある現象が残ってしまっていた。
教室から出ることが出来た今でも、史絵奈の視界に、ある物が浮かんでいるのだ。
それは、ちょうど視界の左端に、常時浮かんでいる状態だった。
黄色い袋上のそれは、まるでフォルダのような形で・・・。
術が中途半端で終わっていたせいだからかも知れなかった。
まるで教室の法則の残滓のようも見えて・・。
「術が失敗したおかげでね。・・・彼女の口から出てきたフォルダの形をした物は、今も私の側にあるの。
私の視界に、浮かんでいるのよ・・。」
「フォルダァー?何だそれ。」
いきなりフォルダの話に飛んだものだから、楓吾が、素っ頓狂な声をあげる。