●15話
神崎修という共通点をもった二人は、たびたびかのんの家で、彼の小説の話をするようになった。
彼の作品の特徴として、この世界とは違う『パラレルワールド』のような異世界の話を好んで書いた所にあるだろう。
原作者から直に話を聞いていた、かのんの話は、一味違っていた。
国内のみで魔法が発揮される国。ザフィーア王国
宝刀王がすべる豊かな国。ウィリデ皇国
竜と契約した竜騎士が、皇帝を守る、スィニエーク帝国
『kemono』となってしまったこちらの世界の人たちの末路・・・。
・・・これらの異世界の話は実際に、神崎修が見てきた本当の話だというのだ。
当時高校生だった彼は、“神隠し”のような現象にあって、異世界に飛ばされてしまった。
そこで出会った神に近い偉大な存在に助けられて、かの国で過ごす人達の物語りを、まるで見学するかのように見る事が出来たのだという。
「・・・古き神のテリトリーの中で匿われたから、体の変体が起こらずに、過ごすことが出来たんだけれど・・・あっその話は、修さんの小説にもあったわよね。
短編だったけど、史絵奈は読んだ?」
「うん。読んだと思う。うる覚えだけど・・・。」
確か、異世界に落ち込んだ男が、ある人にかくまわれ、過ごした話はあったはずだ。
助けてくれた人は、たった一人の異星人。
かの世界では、古き神と呼ばれる彼?彼女は、とてつもなく長い時間を一人で過ごしていた。
広い宇宙の中を、伴侶を求めて流離っていた・・・。
この地球ととても似た、けれどもどこか違う世界で、彼らは一時を過ごす。
主人公は様々なビジョンを見せてもらい、寂しさを分け合った。
共にすごした時間は短く、主人公と別れの時がやってくる。
かの人は、元の世界に戻る時に、錨(いかり)・・アンカーとなる印をつけて主人公を元の世界に戻したのだ。
「あの話も本当の話なの?」
史絵奈が問いかけると、かのんはコクンとつぶやく。
「あの主人公が、修さんそのものなの。
小説では、古き神は彼を戻すために、元いた世界の“その人愛用のモノ”に印(アンカー)をつけていたよね。」
「・・・そうだった・・ね・・。」
中途半端な史絵奈の答えに、不平を洩らすことなく、かのんは続けた。
「本当はね、印・・・アンカーは“モノ”じゃなかったの。
・・・・人間だったの。
古き神は、修さんと血のつながった姉に、自らの細胞・・・印をつけた。
印に向かって、修さんは、元いたこの世界に帰ってくることが出来たの。
一方、印を付けられた姉の体は耐えられない。体のある部分を変化させて、そのもの自体を外に出した。
女には、子宮があるでしょ。印(アンカー)は、姉の遺伝子だけを受け継いだ卵子を分裂させて、成長し、胎児の形をとったの。
そして月満ちると、この世に生を受けたわ。
その子が私。だから私、お父さんがいないの。」
話終えたかのんの瞳の色は、これ以上ないくらいに黄金色に輝き、体全体がほんわかと光り輝く。
「・・・・。」
そんな現象に絶句するもやはり、あるはずのない現象は史絵奈に、恐怖よりもこの上ない陶酔感をもたらした。
荒唐無稽な彼女の話も、その時は事実だと思えたのだった。
「古き神は寂しがり屋さんなんだって・・。」
コッソリ史絵奈に告白したかのんの瞳が、黄金色に光る。そんな現象を見るたびに、ゾクゾクして震えが走ってしまう。
彼女自身、気が付いていないかも知れなかった。
かの世界の話をする時に、ちょくちょく起こっていたある現象。
瞳が黄金色に光るのはもとより、彼女の体が淡い光を発してブレたり、部屋の中の空気が変わって、窓の外の世界がゴッソリ消える。
色彩が消える亜空間に変わったり・・・。
史絵奈達がすごす世界とは、全く違う景色が垣間見えたり・・。
かのんの紡ぎだした言葉がまるで、力を持って映し出したかのような半透明の景色を見せつけられた時もあった。
初めて見た時などは、度肝を抜かれたものだった。
何度かその現象を見せつけられて、慣れるようにはなってきたものの、毎回畏怖と恐怖の入り混じった思いをさせてくれる現象だった。
(…話をするのを、やめればいいのに、できないのよね〜。)
畏怖の感情は、そのまま歓喜の感情ともつながってゆく。
彼女と話す時におきる現象は、高層ビルの屋上から、真下の床を見た時に感じるようなゾクゾク感にとてもよく似ていた。
安全圏にいながら、そんな気分を味わうことを、止めれなくなってしまっていた。
・・・二人だけの秘密だった。
かの世界の話をする時、かのんの口はとてつもなく滑らかで、まるで故郷の話をするように、愛おしげな表情を浮かべる。
そもそもかのんは、異世界の住民だからだ。
古き神の細胞を持つなんて、ビックリ仰天の話を、史絵奈はすんなりと事実として受け入れるくらいに、ありえない現象を見せられてきたから・・。
だからその後、彼女がさらに体験した異常な話を、バカにしないで、まともに答える態度をとれたのだった。