●13話
「かのんと親しくなるきっかけはそう・・・。私が弁当を忘れたのがきっかけだったわ。」
言ってから、ハッとなった。
楓吾に念を押しておく。
「・・・少し話が長くなるけど、聞いてほしいの。
聞いた上で、考えてほしいから。
私って、肝心な事を話さないタイプでしょ・・あえて、すべて話すね。」
と言うと、彼は深くうなずいた。
「いっそのこと、そうしてくれた方がこっちも助かる。
教室の中で話してくれた話も、滅茶苦茶。支離滅裂だったからな。」
と言ってくるので、ちょっとムッとなるが、事実だから仕方がない。
「弁当を忘れた日はね・・。」
史絵奈は、ポツリポツリと話出してゆくのだった。
・・・その日は最低だった。
まずは朝寝坊から始まり、文化祭の画材を忘れた。
抜き打ちテストは、ピントがズレてさんざんで、どどめは弁当だった。
家のテーブルの上に、まとめておいたのを、ごっそり忘れたからだ。
弁当。財布。ハンカチ、ティッシュ・・・。
昼食の時間になって、机をくっつけて集まりだした友人から、コッソリ姿を消すようにして史絵奈は、教室を出て行った。
廊下に出て、トイレに行って用を足した後は、廊下越しの窓から空を見上げて、ポツリ。
「お腹空いた・・。」
と、つぶやいた声が、偶然耳に入ったらしい。
「どうしたの?」
ふいに、耳元でささやいてこられて、ビックリして振り返った史絵奈の目に飛び込んだのは、同じクラスメイトの相川かのんだった。
彼女は、バトミントン部が一緒なだけの、話もしないクラスメイトだった。
運動神経頭打ちの史絵奈とは違い、彼女は部内でもエース的存在だ。
ショートの髪型に、スラリとした体躯を持つ。少年のような雰囲気を持っていた
「弁当も財布も忘れちってさあ。笑っちゃうわよ。」
ハハハッと自笑気味つぶやく史絵奈に、かのんは目を見開いて、
「そりゃ最悪じゃん。私のと半分こにする?」
と、言ってくるのだ。
「そんなの悪いよ。」
同じクループですらない。彼女の言葉に、あわてて答える史絵奈に、
「たいした物じゃないのよ。ちょっとダイエットしようかな?って思っていた所だから。」
おいでおいでをする彼女に、史絵奈は申し訳なく思う。
「でも・・いいよ。」
と、さらに断るのだが、彼女は
「私、最近外で食べるの。よかったらおいで。」
と、手招きされて、空腹の極みにあって、少し眩暈までしていた史絵奈は、断りきれなかった。
彼女と二人で校庭の隅にシートを敷いて陣取り、出してきた弁当をみて唖然となる。
小さすぎる弁当。
「やっぱり私、おなかすいていないからいいよ。」
腰を浮かしかける史絵奈に、
「遠慮しないで。」
かのんは小さな弁当の中味を、箸で器用に線を入れて
「先に食べてよ。」
と言ってくる。
箸をとって食べた史絵奈は、量はともかく彼女の気持ちで、おなかが一杯になった。食べ終わった史絵奈に
「足りる?」
と聞いてくるのを、恐縮しまくりの史絵奈は、
「十分よ。」
と、答えると、
「じゃあ、私の番。」
と、つぶやいて、あっという間に弁当を平らげてゆく。
「・・・・ごめんね。」
謝る史絵奈に、彼女はポカンとした顔をしたが次の瞬間、アッハッハッと大口をあけて笑い、
「謝ることじゃないじゃない。」
と言ってくるのだ。
秋空がすがすがしい。校庭の隅のそこは、ポカポカ陽気に満ち溢れている。
運の悪いはずの一日は、史絵奈の中でとても幸せな一日に逆転する。
それがかのんとの、初めてといっていいくらいの出来事だった。