●7話
「・・・なぜ“ジュー”っていう音がなるんだ?人間同士の血だったら、あんな風になるわけないだろう。
それに、俺の体があんな風になるんだ。・・で、なぜ指が元通りに戻るんだ。」
楓吾は、さっきの出来事をすべて、まるで見てきたかのようなコメントを吐く。
「・・・あぁ。でも、訳わかんねー。
思念の世界だったら、何でもアリかも知れないじゃないか・・・。
俺達は、死なないのか?それとも、喜佐・・・お前が、人間じゃないのか?」
楓吾は深淵を見るような、ゾッとする瞳を向けてくる。
史絵奈には答えることができなかった。
怯えた表情で、顔を横にふる史絵奈に、楓吾はため息を一つつく。
続いて口を開いた言葉は、
「・・なんだか見えたんだ。・・・俺、意識を失った後に、喜佐が自分の腕を切り付けて、血を出すところを・・・。
・・とにかく生き還れたのはお前のおかげのようだ。ありがとうな。」
感謝の言葉が返ってきて、史絵奈はホーと止めていた息を吐く。
彼は史絵奈を責めなかった。
(礼まで言ってくれた・・・。)
訳のわからない状態で、あり得ない蘇り、体の再生を目にしているのだ。
さらに史絵奈の怪しい行動を、気を失っていても見えたのだったら・・・。
教室の変化を、史絵奈と結びつけてもおかしくはなかった。
(こんな状況も、お前が関わっているのか?)
と、問いただしても、こなかった。
様々な謎がある状態で、それをそのまま彼は受け入れてくれた。
「血・・・喜佐の血も止まったな。」
ふいに問いかけられて、ハッとなって自分の腕を見ると、血が止まる所ではない。いつのまにか元に戻っていた。さっき切りつけた所がどこだったかわからないくらいに痕かたなくなくなっているのだ。
「すげえな。お前の体・・。」
称賛のこもった瞳で見つめられて、史絵奈はアハハと、力ない笑みを浮かべた。彼の視線から逃れるようにして、さりげなく服を着てゆく。
しばらく、なんとも言えない沈黙の後、何を思ってか、楓吾は自分の体を叩いたり、机で頭をガンガンやりだすのだ。
「何をしてるの!」
びっくりして彼を近づき止めさせようとする史絵奈を、手で制し、
「体が、どんなふうに変化しているのか、知っておいた方がいいと思ったんだ。」
言ってから、彼は何か思い当ったよう。
「そういえば、喜佐の体が本家なんだから、どんなふうなんだ?
ナイフで切っても死なないのか?」
と、興味津々で逆に問いかけられて戸惑ってしまう。
そんな風に考えたことなかった。
「え?・・・あの・・。」
目を白黒させて言いよどむ史絵奈に、楓吾は肩を落とした。
「分からないか・・・。この世界事態、訳わかんないものな。
・・・でもそうすると、なぜ、あの時喜佐は、自分の腕を切りつけるっていうマネが、出来たんだろう?」
彼の声は静かだった。
静かすぎて、どうゆう言い訳も見透かされるような気がした。
やはり彼なりに、史絵奈の行動がおかしいのを、気づいているのだ。
(事情を説明した方がいいかもしれない・・。)
その時、初めてそう思った。