御館様と、奥の方様        

●47話






 ノエルは理解ある人だった。
 四六時中屋敷内で、ガチガチに緊張してばかりじゃ、肩が疲れるだろう。と言って、たまには外に連れ出してくれた。
 ノエル自身、何をするわけではない謎の人だったのだが、だからこそヒマなのだろう。
 女中とはまた違う綺麗な服を着て、かんざしを髪に刺してシャナリシャナリとあるく姿は、さすがに美しい。
 その後をコソコソ歩いて、マムルークの人達の生活ぶりをのぞくのだったが、神の黄金律と、魔法が支配する国・・・。というわりには、魔法をつかう素ぶりが全く見えなかった。
 さりげなく魔法の話を、ノエルに振ってみると、なんと魔法を使えるのは一握りの人達だけで、一般の民衆はそんなモノとは無縁の生活を送っているらしいのだ。
 人力と馬力のみで、人々は汗だくになって作物を育てる。
 働く人が女性・年寄りがやたらが多いし、畑も小さい。
 と思っていたら、この村の収益のほとんどは、外に『傭兵』もしくは『用心棒』として出稼ぎとして働く男達によって、賄われているらしいのだ。
「この村はね。つい5・60年前に出来た新しい村なのよ。」
 ノエルが、丁寧に教えてくれた。
 巫女姫様が攫われてから、転変地異が激しく。人々は苦汁をなめたという。
 流行り病がたくさんの町や村でも襲い、その上にたたみかけるようにして起こった飢饉が、徐々にマムルークの人口を減らしていった。
 同時に路頭に迷う人が増え、略奪行為も当たり前のように繰り広げられた。
 中央の権利は落ちて、治安が乱れる。
 国家の安全も脅かされた。
 町独自の自警団や、守衛を整えなければ、やってゆけなくなるくらいだったらしいのである。
 そんな時代背景でできた特殊な村・・・ルブルムがそれだった。
 ルブルム村は、依頼されて速やかに行動できる傭兵村だ。
 金で町の守護や内乱を収める“仕事”を引き受ける、傭兵軍団のようなものを生業にした、珍しい村だった。
「珍しいっちゃ珍しいけど、いろんな特徴を持つ村はたくさんあるから。
 傭兵を生業にする軍団とかは、巫女姫様が攫われてからは、ちょくちょく出来た事はあったけれどね、村まで興したなんてのは珍しいかも。」
 先代と先先代の親方様が、偉大だったらしいとの事。
 身分ある女性を妻に迎え、今の親方様と、フラニーが生まれた。
 そこで、かの御館様が“ルブルムの村長”だと知るのだった。。
 彼等二人が、屋敷の中でどこか雰囲気が違うと思っていたのが、高い身分の人達だったのだと知って納得。
 今の親方様の妻になった御方も、隣の街の御息女だったらしい。
 昼間は仕事でいない御館様は、夜になると、きまって奥の方様の屋敷に姿を現した。
 美しいお方は、片ひじをたてて、主人を迎える礼をとった。
「お帰りなさいませ。」
 にこやかに答えて、両手を上げると、御館様は肩にかけた帯を彼女に渡すのだった。
 御館様を出迎える時は、ノエルと共に史絵奈も同伴するので、見ることができるのだ。
 夜の闇に、かがり火の炎が幻想的に彼らの姿を映し出す。
 オリエンタルな衣装に包まれて、優雅に帯を渡す御館様と、帯を受け取る奥の方様の姿は、一つの“絵”になるくらいに美しかった。
 毎夜、おとぎ話の中に入り込んだような気持ちになって、憧れの目線で見てしまうのだった。



 ・・・そんな二人が、実は仲が悪いと知った時は、仰天するどころじゃない。
 出迎えの瞬間は、露ほどそんな気配さえ見えなかったので余計だった。
 けれども、御館様の寝所に供寝するのは、奥の方様ではなかったのだ。
 毎晩のように、若い側女がついた。
 そんな情報は、聞きもしないのに、ノエルが教えてくれるので、有難いような、余計ないざこざは耳にしたくないような。史絵奈を微妙な気分にさせるのだったが、仲が悪いのは本当らしい。
 何気に見てしまった。
 御館様が、さりげなく奥の方様に触れようとした瞬間に、スッー。と彼女が離れる瞬間を。
 避けられて、辛そうな表情をする御館様の顔。
 一方、夫の前では、シャンとして、冷たい笑みを浮かべる奥の方様も、辛そうな表情を浮かべる瞬間があった。
 昼間の演習の時だ。
 男達に混じって、御館様が指揮をとる姿を、遠目からそっとうかがう視線は、夫を想う妻そのものの視線だった。
 切なげにため息をつく奥の方様の様子は、見ているだけなら、それはそれで悩ましげな姿なのだろうが、本人は辛いはずだった。
 彼女の気持ちは、史絵奈にも十分伝わってくるのである。
 なのに、御館様本人を目の前にすると、壁を作ってしまっていた。
 なぜそんなに、ギクシャクした関係が生まれてしまっているのか、不思議に思う。
(奥様も、素直になればいいのに・・。)
 彼女が素直になれない訳は、ほどなくしてノエルから聞くことができたのだった。
 女ばかり3人続けて生んで、やっと恵まれた男子が、御館様と行っていた訓練の最中に、事故で死亡しているらしいのだ。
「奥の方様は、御館様を未だに許せないのよ。御館様の御子を、生みたくない。って、夜のお相手を断っておしまいになって、側女を用意したの。
 後継ぎは必要だからね・・。」
「・・・・・。」
 リアルな話に絶句したままの史絵奈に、ノエルは続ける。
「だから、私達のような存在が母屋に存在するの。
 今日は、私が御館様のお側に上がる番。」
 なんてウキウキしながらの、コメントするのである。
 彼女の身分は、なんと側女・・妻公認の愛人だったのだ。
 綺麗な衣装を着て、何をするでもなく暮らすノエルの身分は、言われて納得。な話だったが、
「イヤじゃないですか?」
 なんて聞くと、ノエルは、信じられない者を見るかのような視線を向けてくる。
「イヤとか、どうとかの問題じゃないでしょう。
 男の子を生めば、私はただの側女じゃなくなるのよ。跡継ぎの母になって贅沢できるのだから・・。
 それに、御館様は結構上手なの。」
 言った彼女の瞳が妖しく輝く。
「気持ちいい事して、おまけにここに宝が宿れば、私の実家も潤うってものなんだから・・。」
 ぬけがけはナシだからね・
 言いながら
「それを決めるのは私じゃないから、何ともいえないけれど、これは奥の方様が決めたことだから、私達。思う存分甘えちゃえるって話なの。」
 話はそれで終わり。と自分で切り上げて、
「ちょっと私、今のうちに湯あみでもすませてくるわ。」
 と言うと、サッと立ちあがって部屋を出て行ってしまうのである。
 ノエルが部屋を出てゆくのを見届けてから、
「・・・なんか凄い話だよね。」
 口をポカンとあけて、ポツリとつぶやく史絵奈に、ナビが
「マムルークは一夫一婦制じゃないからねぇ~。」
 なんて、気軽に答えてくる。
「知ってたの?ノエルの身分を。」
 あっけにとられて問いかける史絵奈に、ナビはコロンと寝転んで
「知らないよ。でもマムルークの国のしきたり?みたいなのは、史絵奈のフォルダのおかげで、なんとか読みとれるから。」
「魔法を使ったら、ヤバいんじゃなかったの?」
「read meファイルを見れば。だいたいの説明は書いてあるから分かるもの。
 あのファイルを読むくらいでは、魔法は発動しないからねえ~。」
「・・・・私にも見えるようにして、せめてread meファイルくらい。」
「ダメ。Read meファイルには、ヤバい実行ファイルとつながっている場所とかがあるんだから。
 シエナ区別つかないでしょ?下手すると発動しちゃうよ。魔法が。
それこそ取り返しつかなくなるじゃん。
 それにシエナ、訳わかんないなりに、何とかやってるじゃない。
 変に知識を身につけると、勘ぐられるよ。おかしいって。」
「それは、あなたも一緒じゃない。」
「ナビは子供だもん。大人達は、子供がいろんな事を、知っているだなんて思わないよ。
 おかしな行動しても、子供だからって、ごまかすもん。」
 彼女に言い切られてしまった。
 ナビがやたら国のしきたりや作法を覚えるのが早い理由が、ここでハッキリわかって肩の力が抜ける。
「なんか、私。とっても損な事になっていない?」
 ブツブツつぶやく史絵奈に、
「カザミクンの方が、大変なんだよ。なに一人で苦労をひっかぶった顔してるんだよ。」
 パンと背中を思いっきり叩かれて、咳こむ史絵奈なのだった。
 





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